大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和44年(あ)2357号 決定 1970年10月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人上山武の上告趣意のうち判例違反をいう点は、所論引用の判例は、本件と事案を異にして適切ではなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、適法な上告理由にあたらない。(原審の判示した被告人の関税法一一三条の二の虚偽申告および同法一一一条一項の無許可輸出の各幇助の罪に関する事実は、堀井憲雄らが、事実は標準外決済方法による輸出であるのに、輸出貨物代金前受証明書あるいは外貨交換済証明書を買い受けて、外国為替銀行の認証を受け、標準決済方法による輸出であるように装って、税関長に対し、右認証書とともに輸出申告をしてその許可を受けたうえ、貨物を輸出するものであることを知りながら、被告人において、外貨交換済証明書等を右堀井らに売り渡すなどして、同人らの右輸出申告および輸出を幇助した、というものである。しかしこのような事実関係のもとにおいては、本件輸出許可が、重大かつ明白な瑕疵ある行政行為であるから無効のものであるとは解されず、したがってその輸出は、税関長の有効な許可のもとになされたものというべきであるから、その本犯について虚偽申告罪の成立が認められるとしても、無許可輸出罪は成立しないものといわなければならない。してみると被告人につき無許可輸出の幇助の罪の成立を認めた原判決は、この点において誤りがある。しかし本件無許可輸出幇助の罪は、外国為替及び外国貿易管理法第七〇条二一号、四八条一項、輸出貿易管理令一条の無承認輸出の幇助の罪と観念的競合の関係にあるものとして処断されたものであり、その法定刑をみると、最も重い刑である懲役刑は、いずれも三年以下で同じであるから、前者の罪の成立が認められないとしても、その処断刑が異ならないことなどを勘案すれば、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものということはできない。)

よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例